《0753_02》 脱水が病人を元気にした [未分類]

研修医君が真顔で質問してきました。

「長尾先生、本当に胸水を抜かなくても大丈夫?

 病院では週3回、毎回1ℓ抜いていたのですが」

 

「大丈夫、大丈夫」と私。まあええ加減な返事です。

ですから研修医君もご家族も、まだ半信半疑です。

大病院から続いてきた「儀式」をしないのは大事件。

 

果たして1週間後に研修医君と訪問してみました。

訪問看護師さんは毎日利尿剤を打ってくれました。

予想通り患者さんは別人のようになっていました。

 

しかめっ面が笑顔に変わっていたのです。

肩呼吸だったのが、楽そうな呼吸に。

足の浮腫みもかなり軽減しました。

 

脱水が病人を元気にしました。

 

御飯も少し食べれるようになりました。

何から何まで明らかに改善しました。

これでご家族や本人にやっと信用してもらえそうです。

 

どこの馬の骨とも分からない町医者は簡単には信用

してもらえません。

まして命がかかった大事な局面ではそれで当然です。

 

ここで、ご家族から質問されました。

 

「先生、抗がん剤治療は続けたほうがいいでしょうか?」

「さあ、それは病院の主治医とよく相談してください」

 

「でも病院に行って1時間待つのが苦痛なのです」

「仕方がありませんよ、病院はそんな所ですから」

 

「先生から主治医に聞いてもらえませんか?」

「それはできませんね。医療はあくまで患者さんと

 主治医の話し合いで決まるものですからね」

 

「じゃあ、これだけ元気になったので行ってみようかな?」

「どうぞ、予約を取ってから行かれたらどうでしょうか?」

 

ところが抗がん剤当日になってから私に電話が入りました。

「やっぱり、今日はやめておきます」と。

ドタキャンでした。

 

「ところで先生は、毎週、来て頂けますか?

 しばらく、抗がん剤を止めてみたいのです」

 

「いいと思いますよ」と私。

 

この時点で本当の意味での在宅医療が始まったのです。

これまでは「往診」に過ぎませんでした。

定期的、計画的に行く「訪問診療」が在宅医療の柱です。

 

さて、抗がん剤を暫くお休みをして在宅療養で様子を見る

のはいいとして、もうひとつ困った問題が出てきました。

今度は免疫療法を続けるかどうかという相談でした。

 

研修医君と顔を見合わせてしまいました。

(続く)