そのがん患者さんは、温熱療法も併用していました。
温熱療法とはがん細胞が熱に弱い性質を利用した治療法。
病巣を温めるとがん細胞が先に死んでしまうのです。
体を温めると良いことは、有名な事実です。
私も近所の塩サウナに患者さんを通わせて
いろんなデータを取った経験があります。
ヒートショックプロテイン(HSP)という
蛋白が体を温めると誘導され、免疫能が上がります。
温めることは、どんな人にも良い効果があるのです。
温熱療法は最初の8回は健康保険が効きますが
それ以降は自費になります。
8回目以降も自費診療で続けられてていました。
さて、そのがん患者さんは大変忙しいのです。
がん拠点病院に抗がん剤を打ちに行き、その合間に
免疫療法や温熱療法にも通われています。
1週間のうち、通常、使えるのは6日間です。
そのうち1日はがん拠点病院を受診し、あとの日は
免疫療法や温熱療法に出かけなければなりません。
我々在宅スタッフが日中に入れるのは3日だけ。
そこにヘルパーさんが入ったりデイケアが入ると
空いている日が週に1~2日ということもあります。
訪問診療日、訪問看護日の調整が意外と大変です。
温熱療法の感想を聞くと「気持ちいい」そうです。
しかし、大抵ぐったり疲れて帰ってこられます。
そこで看護師が点滴やマッサージをして体を癒します。
まるでボクシングのトレーナーのようです。
それがあるから複数の治療が継続できるのでしょう。
「なあ、研修医君。患者さんはとても忙しいんだ。
在宅医療は患者さんのスケジュール把握から始まるんだ」
「そうですね、こんな治療法があるなんて知りませんでした」
外来抗がん剤治療、免疫療法、温熱療法と並行して行う
在宅医療もあります。
しかしそんな日々は、たいていそう長くは続きません。
しかも「痛み」という問題には、どこも担当しないので
在宅医が診ることが多いのです。
この末期がん患者さんも相当な痛みが始まっていました。
(続く)