何種類もの抗がん治療で多忙な在宅患者さん。
ご家族が運転する車で、毎日東へ西へ大移動。
治療の合間を縫って研修医君と訪問しました。
訪問看護師さんによるステロイド入り点滴の最中。
この点滴をすると3日くらい食欲が出て喜ばれる。
在宅ホスピス医には必須アイテムです。
「何か困っておられることはありませんか?」
「特にないけれど右の背中がちょっと痛いな」
だいたいこの程度の会話から緩和医療が始まります。
右の背中を少し触った途端に「痛っ!」との声。
ビックリして、手をひっこめました。
今度は右のお腹を触ろうとしました。
「先生、やめて、やめて、やめて!」
驚いたのは私の方でした。
これだけの痛みに気がつかなかったのですから。
一見穏やかなお顔にすっかり騙されていました。
さっそく、普通の痛み止めを処方しました。
通常、NSAIDsという痛み止を使います。
翌日、まだ強い痛みを訴えられました。
次に、麻薬を重ねて処方しました。
麻薬というと怖いイメージがあるかもしれません。
怖いのは管理体制が厳しいだけで薬自体は優しい。
私の場合は、オキシコンチンという名前の麻薬を
最小量(5mgx2回)から使い始めることが多い。
ご飯が食べられる方には、原則、飲み薬を使います。
最近の麻薬はジワーと効く工夫がされていて
1日1回ないし2回タイプのお薬が普通です。
これでまず土台を作ります。
痛みは急に襲うので頓服の痛み止めも必要です。
オキノームやオプソという頓服薬も処方します。
飲めばすぐに効くので「レスキュー」と言います。
さて、こうした痛み止を開始して3日目に訪問。
患者さんの食事量が増えていたことに驚きました。
増えて初めてこれまで相当痛かった事が分かりました。
また自然な笑顔も見られるようになりました。
研修医君に在宅医療システムを偉そうに説明しながらも、
肝心の患者さんの痛みを見落としていたのは恥じました。
「在宅医療の要は、緩和医療にあるんだ!」
ちょっと無理がありましたが研修医君に説教し始めました。
「患者の痛みを感じるのは、医師の感性の問題だ。
分かる医者は分かるし、分からん医者は一生分からん。
君も人の痛みが分かる医者にならんといけんよ!」と。
「はい、わかりました。ところで、
長尾先生、痛み止めの副作用は無いのですか?」と。
そうそう、
そういえば、副作用対策を忘れていましたね・・・
(続く)