《0756》 緩和医療も在宅医の仕事です [未分類]

何種類もの抗がん治療で多忙な在宅患者さん。

ご家族が運転する車で、毎日東へ西へ大移動。

治療の合間を縫って研修医君と訪問しました。

 

訪問看護師さんによるステロイド入り点滴の最中。

この点滴をすると3日くらい食欲が出て喜ばれる。

在宅ホスピス医には必須アイテムです。

 

「何か困っておられることはありませんか?」

「特にないけれど右の背中がちょっと痛いな」

だいたいこの程度の会話から緩和医療が始まります。

 

右の背中を少し触った途端に「痛っ!」との声。

ビックリして、手をひっこめました。

今度は右のお腹を触ろうとしました。

 

「先生、やめて、やめて、やめて!」

 

驚いたのは私の方でした。

これだけの痛みに気がつかなかったのですから。

一見穏やかなお顔にすっかり騙されていました。

 

さっそく、普通の痛み止めを処方しました。

通常、NSAIDsという痛み止を使います。

翌日、まだ強い痛みを訴えられました。

 

次に、麻薬を重ねて処方しました。

麻薬というと怖いイメージがあるかもしれません。

怖いのは管理体制が厳しいだけで薬自体は優しい。

 

私の場合は、オキシコンチンという名前の麻薬を

最小量(5mgx2回)から使い始めることが多い。

ご飯が食べられる方には、原則、飲み薬を使います。

 

最近の麻薬はジワーと効く工夫がされていて

1日1回ないし2回タイプのお薬が普通です。

これでまず土台を作ります。

 

痛みは急に襲うので頓服の痛み止めも必要です。

オキノームやオプソという頓服薬も処方します。

飲めばすぐに効くので「レスキュー」と言います。

 

さて、こうした痛み止を開始して3日目に訪問。

患者さんの食事量が増えていたことに驚きました。

増えて初めてこれまで相当痛かった事が分かりました。

 

また自然な笑顔も見られるようになりました。

研修医君に在宅医療システムを偉そうに説明しながらも、

肝心の患者さんの痛みを見落としていたのは恥じました。

 

「在宅医療の要は、緩和医療にあるんだ!」

 

ちょっと無理がありましたが研修医君に説教し始めました。

 

「患者の痛みを感じるのは、医師の感性の問題だ。

 分かる医者は分かるし、分からん医者は一生分からん。

 君も人の痛みが分かる医者にならんといけんよ!」と。

 

「はい、わかりました。ところで、

長尾先生、痛み止めの副作用は無いのですか?」と。

 

そうそう、

そういえば、副作用対策を忘れていましたね・・・

(続く)