《0761》 在宅で輸血できるか? [未分類]

末期がん患者さんによく見られる貧血に対しては

輸血せず様子をみることがほとんどです。

輸血しないほうが経過が良いことを経験で知っています。

 

「長尾先生、在宅で輸血することは本当に無いのですか?」

研修医君から、すかさず質問が飛んできました。

 

実は、在宅で輸血することは、あります。

私自身、何度か経験しました。

在宅で輸血する対象となる代表的な病気が知られています。

 

骨髄異形成症候群、略してMDS、という病気です。

骨髄で血液が造りにくくなる病気です。

悪性か良性かと聞かれれば、良性の病気。

 

MDSの唯一の治療は、「輸血」です。

何週間に1度、輸血さえしていれば長く生きれます。

しかし輸血しないと、早晩、貧血で死に至ります。

 

在宅での輸血は、正直結構面倒臭いものです。

まず朝一番に、クロスマッチ用の採血をします。

次にその血液と輸血用血液を混ぜる試験を行います。

 

クロスマッチ試験の結果を見てからしか輸血できません。

それでも輸血は、「臓器移植」の一種ですから、

予期せぬ激しいアレルギー反応が起こる可能性があります。

 

そのアナフィラキシーショックに備えてから輸血します。

具体的には人工呼吸用のマスクや気管内挿管セットをはじめと

する救急セットを全て用意しないと在宅での輸血できません。

 

輸血承諾書にサインも貰わなくてはいけません。

普通の点滴なら訪問看護師さんがしてくれますが、

輸血は医師自身が太い針を刺さなくてはいけません。

 

万一、異変が起こらないか、側でずっと観察する必要もあります。

かなりの時間と手間を取られます。

しかしその分、患者さんには喜ばれます。

 

血液内科から輸血が必要な在宅患者さんが、稀に紹介されます。

ほぼ寝たきりで輸血のために病院に連れて行きにくい患者です。

気が弱いので頼まれたら断ることが出来ず、やってしまいます。

 

「研修医君、在宅輸血は知っておいたほうがいいよ」

と言いながら、あまりやりたい仕事ではありません。

しかし、輸血が出来ることは知っておいてください。