《0771》 人工呼吸器の希望!? [未分類]

末期がんのうち最も在宅療養が難しいがんは何?

研修医君が聞いてきました。

「そうだね、肺がんじゃないかな?」

 

末期がんの苦痛は沢山あります。

がんの痛み、心の痛み、吐き気、全身倦怠感・・・

なかでも一番厄介なのが、「呼吸困難感」です。

 

食べることは、一時中止することができます。

しかし、呼吸は何時も中止することができません。

心臓も停止できませんが、これは自分で調節不可。

 

昼も夜も、容赦なく呼吸困難は続きます。

大量の痰としつこい咳が持続しています。

苦しく苦しくて眠れないと訴えられます。

 

在宅酸素の機械は、1週間前から入れています。

鼻の管と、口からのマスク、どちらでもいいように

してありますが、ほとんどどちらも使用していません。

 

遠くの親戚が再び訪ねてこられました。

大昔は、よく遊んだ仲だったそうです。

大きな声で私に言いました。

 

「先生、人工呼吸器をつけてくれませんか!?」

 

「人工呼吸器??」

 

「こんなに苦しいのならその方が楽になるんじゃないか?

 気管に管を入れた方が痰も取り易くなるんじゃないか?

 わしゃ素人じゃけどそんな風なことを聞いたことがある」

 

「こういうストレートで単純な質問が一番困るんだ」

後ろにいる研修医君に思わず呟やいてしまいました。

家族一同、私の回答を注目しています。

 

「人工呼吸器ですか?

 解決になるどころか却って苦しいかと思います。

第一、     人工呼吸器を付けるには挿管が必要です」

 

「挿管?」

 

「そう、気管に気管チューブを入れることです。

 口から入れます。

 通常、意識がある人は入れることができません」

 

「先生は、管を入れられるんですか?」

 

「昔、2年間麻酔の研修をしていたので入れるのは簡単です」

 

研修医君の手前、小さく胸を張りました。

在宅医療をするには、麻酔科や小外科の技術も必要だ。

昨晩、酒を飲みながらそう話したばかりです。

 

「しかし、多少苦しくても死んでしまうより

 いいじゃないか?

 死んだら年金も入らんようになるし」

 

横のお部屋で遠くの親戚は言いました。

家族も小さく頷いていました。

今度は、論調が少し変わってきました。

 

「年金って?一体いくらあるんですか?」

 

「昔公務員だったから、月に20万はあるんじゃ。

 それが無くなったら、こいつら家族はどうやって

生きていけばいいんだ?」

 

そんなことを言われても、と思いながら

研修医君と顔を見合わせてしまいました。

苦痛緩和の話が、年金の話に入れ替わっていました。

(続く)

 

PS)

昨夜は、日本医師会長さんと直接、終末期医療に関する

お話をさせて頂く機会がありました。

その前日は、元・日本医師会長の先生と同様の話題について

お話しさせて頂く機会がありました。

さらに医学会の首脳部の先生とも終末期のお話をしました。

 

医師末端の町医者が、トップの方と議論できる

非常に充実した週末でした。