《0772》 そもそも延命治療とは? [未分類]

末期の肺がん患者さんに人工呼吸器をつける?

我々の常識ではあり得ない提案を、

遠くの親戚は堂々としてきました。

 

あり得ない!?

と考えていたら、遠い昔を思い出しました。

研修医時代、そういうことがありました。

 

いやいや、何回もありました。

そう言えば、最近、最期に病院に入院された95歳の

肺がんのおばあちゃんは人工呼吸器を付けられました。

 

決して遠い昔の話ではないことに気がつきました。

その病院の医師に言われた言葉を思い出しました。

その言葉を巡って議論したことも思い出しました。

 

「医者なら、1日でも、1時間でも長く患者さんを

 生かせるには当然じゃないか?

 長尾先生は、手を抜いているんじゃないですか?」

 

その病院の先生は、在宅医療に非常に懐疑的です。

「在宅で看取るなんてとんでもない」とも言われました。

その先生に限らず病院の先生からよく言われる言葉です。

 

「長尾先生、延命を諦めたら医者じゃないよ。

 看取るだけなら葬儀屋さんでもできるよ。

 医者なら1秒でも長く、生かせなきゃ・・・」

 

思い出していたら、研修医君が質問してきました。

 

「長尾先生、そもそも延命治療って何ですか?」

 

「三大延命治療とは、栄養の延命(胃瘻など)、呼吸の延命、

 (人工呼吸器)、腎不全の延命(透析)を言うんだ。」

 

「三大というからには、その他にもあるんですか?」

 

今週の研修医君は、結構、いい突っ込みをしています。

 

「昨日まで続けてきた200mlのなぐさめの点滴も

 延命と言えば延命治療かもしれないな。

 人工的にわずかの水分と栄養を外から入れた訳だしね」

 

「じゃあ、この酸素吸入はどうですか?

 延命治療に入るんですか?」

 

「酸素?まあ微妙だね?

 延命というより緩和かな?」

 

「延命と緩和は両立しないんですか?」

 

今週の研修医君は、かなりしつこいです。

でもいい医者になりそうな予感がします。

 

「延命と緩和は両立するもんだ。

 少なくとも緩和をしたら命が短くなることは無い。

 むしろ、緩和で命も少し伸びるんじゃないかな?」

 

かなり楽観的観測を一般論として言い切りました。

まあ教科書にもそんなこと書いていないだろうし。

しかし帰り道、昼間に言った言葉を思い出しました。

 

延命治療とは、命を継続させるために外部から行う

医療処置。

考えてみれば、これって意外に広い概念だな。

 

赤ちゃんはお母親にミルクを飲ませてもらうし、

高齢者は、介護者にご飯を食べさせてもらう。

もっともこれは医療処置ではないけれど・・・。

 

明日、研修医君に詳しく説明しようと思いながら

少し不安になってきました。

自分は毎日気がつかないうちに延命治療をしています。

 

翌朝、研修君に結論を言いました。

「延命治療の定義は、実は奥が深いんだ。

だからとりあえず、3大延命治療で考えていけばいい。

栄養、呼吸、腎臓、この3つの延命治療が大切なんだ」

 

「長尾先生、その3つは本当に同等なんですか?」

 

「・・・」

 

今週の研修医君は、結構手ごわい奴です。

(続く)