《0774》 本当に、逮捕されませんか? [未分類]

研修医君は私の身の上を心配してくれした。

点滴という延命処置を中止したものの、

後になってから家族から訴えられないか?

 

「長尾先生、過去に訴えられた事件を調べてみました」

 

1991年には、東海大学病院事件

1997年には、川崎協同病院事件

 

どちらも安楽死として逮捕され有罪が確定。

 

さらに

2003年には、 羽幌病院事件

2006年には、 射水市民病院事件

 

どちらも延命処置を中止して容疑で医師が逮捕され

ましたが裁判で結局、不起訴になっています。

 

「長尾先生、延命処置不開始での事件はないけど

中止での事件があるので、中止は怖いですね。」

 

確かに、研修医君のいうとうり、

事件になったのは、すべて「中止」事例のみです。

 

「研修医君、点滴や胃瘻注入を中止して

 医師が訴えられた事例は無いよね?」

 

「長尾先生、僕が調べた範囲では1例もありませんでした」

 

「じゃあなぜ、君はそんなに訴訟を心配するんだ?」

 

「大学病院の指導医から厳しく言われているのです。

 絶対に逮捕されないような医療をやるように、と。

 特に延命治療の中止は御法度、と言われています。」

 

「なるほど、大学病院では中止はタブーっていう訳か。

 そう言えば亡くなった人に抗がん剤が入った点滴が

ポタポタ落ちるのを見た昔の光景を思い出したよ」

 

「逮捕」という事件が多くの医師のトラウマになっています。

しかし今回の点滴の中止、人工呼吸器の不開始ではどうやら

逮捕されない可能性が高いことで、研修医君は納得しました。

 

末期がんの在宅患者さんの家の前でこんな会話をしていたら、

ちょうど家の中からお孫さんが飛び出して来られました。

 

「あっ、長尾先生、大変です。

 介護していたおばあちゃんの方が倒れました!」

(つづく)