《0778》 日曜深夜に麻薬を運ぶ薬剤師 [未分類]

死の壁の真っただ中で悶える患者さんに

しょうがないので、腕枕で添い寝をしました。

しかし深夜に激しい痛みが出て眠れなくなりました。

 

レスキューの麻薬を全部使い切ったことに気がつきました。

がんの激しい痛みは、麻薬でないととても収まりません。

しかし日曜日の深夜は、日本中の薬局が閉まっています。

 

院外処方は、こういう時に不便です。

以前は院内処方でしたから深夜でも麻薬を調達できました。

しかし院外処方では、どうすることもできません。

 

「在宅医療は24時間365日って言ったって、口だけだな。

 真夜中に麻薬ひとつ調達することすらできないんだから」

 

研修医君に呟いたつもりが、既に帰ったあとでした。

独語を吐いている自分自身が、情けなくなりました。

結局どうしようか、と思案にくれました。

 

そういえば夜中もやっている薬剤師さんを思い出しました。

車の中から彼の名刺を探して、携帯電話にかけてみました。

果たして、その薬剤師さんが出ました。おっと本当に出た!

 

「深夜に申し訳ありません。尼崎の長尾といいますが、

 どうしても麻薬が必要な患者さんがいるのですが」

 

「いいですよ。どんな麻薬が必要ですか?

 今から届けますよ!」

 

あまりにも軽快な対応に、思わず耳を疑いました。

結局、午前3時にその薬剤師さんが麻薬を運んでくれました。

頓服を口に入れて1時間後、患者さんの痛みは改善しました。

 

「長尾先生、世の中には変な薬剤師もいるんですね」

 

翌朝、研修医君がそう話しかけてきました。

 

「そうだ。薬剤師さんもふたとおりある。

 外に出る薬剤師さんと出ない薬剤師さん。

 もっとも医者も同じだけどね」

 

この薬剤師さんは、1990年代から夜中も麻薬を

持って走り回っているそうです。

介護保険制度も訪問薬剤指導料も無い時代からです。

 

「結局、なんでも志なんだよな。

 診療報酬に踊らされちゃいけないんだ。

 俺なんか、逆を行っちゃうからね・・・」

 

振り向けば研修医君は、私の戯言など聞いていません。

しかし患者さんの手をしっかり握っていました。

(つづく)

 

PS)

昨日、日本尊厳死協会の社員総会と理事会が開催され

不肖私が、副理事長を拝命いたしました。

http://www.songenshi-kyokai.com/

 

関西支部長との兼任になります。http://www.songen-ks.jp/

12.5万人もの会員がいる大きな組織ですから、

このブログの読者さんにも多くの会員さんがおられるでしょう。

今後ともよろしくお願いいたします。