《0779》 先生、早く来て! [未分類]

今夜が山といいながら、死の壁とかなんだかんだ、

いいながら、まだ患者さんは生きています。

虫の息ですが、少しは意識もあり返事もできます。

 

再再再度、ご家族に看取りの説明をしました。

下顎呼吸という最期の呼吸の実演もしました。

救急車を呼ばない話もしました。

 

亡くなった後に着させる服を用意しておくこと、

頼む葬儀屋を決めておくこと、

夜中に息が止まった場合行くのは朝になること等。

 

「長尾先生、もう何度も聞き飽きましたわ

 それより、本当にいつになるんですか?」

ここまで言われるとそれ以上言えなくなりました。

 

その夜は在宅医療の会議があり東京に出張していました。

案の定深夜2時に東京のホテルで携帯電話が鳴りました。

「先生、早く来てください!早く!早く!」

 

電話口の向こうから大きな叫び声が聞こえてきました。

「お父さん、逝ったらあかん、逝ったらあかんて!」

何人かが、まさに「絶叫」しています。

 

どうやら旅立たれたようです。

またしても予想が外れました。

今夜がその時だったのです。

 

狼少年になってしまったことが、勘を狂わせました。

そして私の想像をはるかに上回る大騒ぎが始まりました。

遠くの親戚の「先生はまだか?」という声が聞こえてきます。

 

「朝一番の電車で帰阪するので、静かに待っていてください。

 死亡診断書は、午前2時で書きますからね。

 落ち着いてとにかく待っていてくださーい」

 

言いながら家族があまりに慌てるものだから

つられてこちらもどこか慌ててしまいました。

あれだけ慌てるな!と説明していたのに・・・

 

研修医君の携帯電話を鳴らしてみました。

やはり出ませんでした。

今夜のオンコールは知人の在宅医にも頼んでいませんでした。

 

「私の到着より先に葬儀屋さんに電話してもいいからね」と

言ってから1時間後、葬儀屋さんから電話が入りました。

「死亡診断書が無いと遺体を触ることができません」と。

 

「大丈夫です。綺麗にしてあげてください。

 朝一番で伺って死亡診断書を書きますから」

と何度説明しても、言う事をきいてくれません。

 

どうやら葬儀屋さん内部のマニュアルでそうなって

いるようです。

昔は結構おおらかだったのに、最近は杓子定規です。

 

「しまった、研修医君に頼んで行くべきだった・・・」

 

後悔しながら悶々と夜が明けるのを待ちました。

(つづく)