《0780》 到着まで7時間もかかった [未分類]

始発の新幹線で帰阪して午前9時に患者宅に到着しました。

研修医君も訪問看護師さんも、みなさんが揃っていました。

彼らは朝一番で、私より一足早く、到着したようです。

 

私は既に布がかけられた患者さんと対面しました。

呼吸停止との連絡からもう7時間も経過しています。

いまさら死亡診断する必要はありません。

 

とても穏やかなお顔をされていました。

最期まで住み慣れた自宅で過ごされ、緩和医療の

力を借りての、立派な「尊厳死」でした。

 

聴診器を持ってはいますが当てる必要もありません。

「呼吸が止まったのは何時頃でしたか?」

分かっているのですが、穏やかな口調で聞いてみました。

 

「ちょうど午前2時ころです」

あれだけ絶叫していたご家族も静かになっています。

10数人いたであろうのに、数人に減っています。

 

訪問看護師さんは死に化粧をしています。

葬儀屋さんは、祭壇の準備をしています。

私は死亡診断書を書くため、台所のテーブルを借りました。

 

診断書を書いていると、娘さんがコーヒーを入れてくれました。

コーヒーより、それを入れる位、落ち着きを取り戻したことに

ちょっと安心しました。

 

どれだけ詳しくお話ししていてもご家族は混乱します。

旅立ちの悲嘆と、それを当事者として受け止めること

へのプレッシャーがパニックを起こすことがあります。

 

「長尾先生、結局、7時間もかかりましたね。

 これで本当に問題は無いのですか?

 それと死亡時刻は、本当に午前2時でいいんですか?」

 

研修医君は、疑い深い顔で聞いてきました。

 

「大丈夫だ。医師法20条があるからね」

 

「医師法20条?」

 

「大学で習わなかった?」

 

「ちょっと記憶にないんですが・・・・」

(つづく)