《0791》 自ら尊厳死を選ぶ家「デイグニタス」 [未分類]

● 世界の「尊厳死」は、日本の「安楽死」

最初に申し上げておきたいのは、今回のシリーズの中で使う
世界での「尊厳死」とは、日本での「安楽死」のことだ。
では日本で言っている尊厳死というと、世界中どこにも無い。

「日本の尊厳死」は、世界では当たり前だから特に言葉が無い。
日本以外の国で使われる「尊厳死」とは日本でいう「安楽死」。
このことを、しっかり頭に入れて頂かないと、必ず混乱する。

言葉の定義が、日本と諸外国では全く違うのだ。

安楽死とは、人為的に命を縮める行為。
日本では、それは犯罪であり、許されない行為。
しかし諸外国では、尊厳のためなら多少は許されるという考え方。

だから多少命が縮まっても外国では「尊厳死」という言葉を使う。
もっとも、すごく命が縮まったら「安楽死」という言葉に代わる。
日本では多少でも命が縮まったら、尊厳死という言葉を使わない。

日本の尊厳死と世界の尊厳死は、一段違う概念である。
私は、安楽死(日本でいう)には反対である。自殺も嫌い。
ということは、世界の尊厳死にも反対、ということだ。

● デイグニタス見学ツアー

今日は、世界連合の有志約50人と共にバスに乗って
デイグニタス(Dignitas)の施設と事務所を見学した。
日本人は、私を含めて4人が参加した。

デイグニタスとは、「尊厳ある生」を全うするために
1998年に設立された組織の名前だ。
病気で不治かつ末期となった人の尊厳死を受け入れてきた。

チューリッヒ市内から車で東に小一時間走ると、
まだ雪を抱いたアルプスが遠くに見渡せる、なだらかな
丘陵地帯に、目指すデイグニタスの施設があった。

外から見ると2階建ての普通の一軒家だ。
中に入ると広いベッドルームがふたつと小部屋が2つ。
外には、お庭やお池があり可愛い小川が流れている。

池には蓮の葉が浮かび中では大きい金魚が泳いでいた。
ゆったりした、どこか東洋の匂いすらする普通の家だ。
デイグニタスが購入して、そのまま使っているそうだ。

 

● デイグニタスでの尊厳死の実際と費用

デイグニタスで尊厳死するまでの具体的行程を聞いた。
まずデイグニタスのメンバーになる必要がある。
入会金は16000円で、年会費が6000円。

申込書に「何故尊厳死したいのか?」を詳しく書いてもらう。
それまでの詳しい医療記録も添付しなければならない。
この書類審査に4カ月間もかかるという。

スイスでは、末期がんの定義は余命6カ月らしい。
一方、日本での末期がんの在宅期間は1.5カ月なので
4カ月も待っている間に死んでしまうな、と思った。

さて、尊厳死の書類審査に合格したら、
尊厳死までの手続きに5日間かかる。

  • 1日目は、入所。(泊まる場所は別らしい)
  • 2日目は、医師の面談。
  • 3日目は、考える時間。
  • 4日目は、再度、医師との面談の時間。(意思の再確認)
  • 5日目は、自分でお薬を飲んで尊厳死する日・・・

お薬とは、麻酔薬の飲み薬の錠剤のこと。
2回面談した医師が処方する。
1回目の医師と2回目の医師が異なることもある。

医師とは、近くの病院に勤務する普通の医師。
ただし、尊厳死に理解がある受容医師であろう。
その医師の外来を2回、受診するわけだ。

5日間には、家族や仲間とその家や庭で一緒に過ごす。
晴れた日なら、最期のパーテイをするのかもしれない。
先週は外国から35人も仲間がやってきたと言っていた。

さて、そのピル(錠剤)を飲むと1時間半で呼吸停止する。
警察に連絡し監察医を呼び検視を行う。異状死として扱う。
「自殺」と認定されて初めて、火葬の許可が出るそうだ。

自殺薬を飲む家、だったのだ。

ピル(自殺薬)はデイグニタスのスタッフが買う。
名前と目的が書いてある処方箋は6カ月間有効。
使わない時は薬局に戻す。

● デイグニタスでの尊厳死に必要な費用

4カ月間の記録等の費用 24万円
医師へのコンサルト料  4万円x2回
検視まで含めた諸費用が24万円程度で、
これら全部含めて約100万円位かかるそうだ。

日本人は死んでから何百万と使うが、それと比べると合理的か。
年間150人が、この家で尊厳死しているそうだ。
尊厳死する日だけ、ここにいるので1日1人のペースのみ。

バッデイングすることがないよう工夫していると。
外国人は歓迎している訳ではないが
スコットランドからの人が多いそうだ。

ちなみに日本からの問い合わせがあるが、
実際に来た人はいないとのこと。
日本人で来たのは、私達が初めてとのこと。

医師が合法的にお薬を処方して、自分で飲んで死ぬ。
要するに自殺なのだが、これがデイグニタスでの尊厳死。
日本なら、安楽死だし、殺人罪で医師が逮捕される。

しかし、スイスでは合法。
正確には州(23ある)によって法律は多少異なるようだ。
少なくともチューリッヒ州では合法だからデイグニタスが存在する。

● 私の率直な感想

 (1)正直、かなり違和感があった。
もし自分なら、ここには来たくない。
医師としても、死ぬためのお薬を処方する点に抵抗がある。

 (2)しかし緩和医療の中に含まれるという考え方もある気がした。
彼らは、こうした行為も緩和ケアであると本気で考えている。
日本では到底許容されない考え方だが分からない訳でもない。

帰り道には、デイグニタスの本部事務所にも立ち寄った。
5つの部屋からなる明るいオフィスの職員は15人程度。
亡くなった方のカルテが色分けされて、保管されていた。

看取りの家にも、事務所にも、看板は出ていない。
患者さんの恐怖心に配慮しているようだ。
必要とする人のために静かに活動したいのが彼らの本音。

「宣伝して欲しくない」とも言われた。
このブログで宣伝しているわけではない。
あくまで海外動向をお伝えしているだけ。

私は、デイグニタスを勧めているわけでも
紹介しようとしている話でも何でもない。
ただ今回、見聞きした事実だけをお伝えしているだけ。

当然、カトリック系の方から激しい攻撃を受けるそうだ。
弁護士など法律の専門家を配置し、合法的に受け入れている。
決してお金儲けではなく「哲学」がモチベーションだと感じた。

● やっぱり在宅看取りの方がいい

カナダの尊厳死協会の女性に、ここの感想を聞いてみた。
トイレに手すりが無いことを指摘し、顔をしかめられた。
「私はこんなところではなく、自宅で尊厳死したい」とも。

実は、私自身もそれと同じことを感じた。
死ぬためだけに、何故ここまで来なければならないのか???
死ぬ場所は、自分の匂いがついた布団や枕の方がいいと感じた。

もっと機械的にやっているのかと思っていた。
もっとビジネスライクだとも想像していた。
しかし、事前の予想とは全く違っていた。

しかし、そもそも、何故ここまでしなければ死ねないのか?
尊厳死や平穏死は、ヨーロッパでも本当に難しいようだ。
英国から海を超えて死にに来て、骨になって自宅に帰る・・・

そこまでしないと、「満足死」が手に入らないのか?
尊厳死や満足死や平穏死は、どこの国も共通して抱える課題か。
医療の進歩があればこのような問題が生じるのは必然のようだ。

終末期医療は決して日本だけの課題ではないことを思い知った。
さらに、私が普段している緩和ケアをベースにした
在宅看取りの方が、数段優れていると直感的に思った。

● 遥かなる「平穏死」

外国の尊厳死は、日本の安楽死。
では日本の尊厳死とは、平穏死、自然死、満足死と同義。
言葉の定義やニュアンスだけでも日本と外国はかなり違う。

ここに世界中から集まっている人たちはなんなんだろう?
毎日、ずっと考えている。
ハッキリ言って「死」のオタクと筋金入りの実践者たちだ。

「平穏死できない現実」は先進国に共通した悩みである。
どこの国でも、尊厳死法制化を巡る議論が続いている。
そして必ず、尊厳死に強硬に反対する団体がいる。

どうやらこの構図は、間違いなく世界共通の現象のようだ。
「平穏死のために命をかける」変な人がいるのも世界共通。
町医者がスイスまで来て、言葉の壁はあれど多くの学びを得た。

決して日本だけが特別遅れているわけではない。
尊厳死協会の歴史や規模は、世界のトップランナーだ。
誇りを持って、現実に対峙して行くべきだと思った。

まさに国民的議論の中で進められるべき課題である。
そんな当たり前のことを改めて確信した世界連合だ。
人間の尊厳に正面から向き合う人達が、確かにいた。