《0796》 「散る桜 残る桜も 散る桜」 [未分類]

ある日突然、無過失の交通事故で全身麻痺になり意識清明なるも

機械で生きる境遇になった松尾巻子さんと介護する夫の幸郎さん。

巻子さんは、「レッツチャット」で、短い言葉を紡ぎ続けています。

 

「ま み い を こ ろ し て く だ さ い」

 

巻子さんは、ご自身のことを「マミイ」と呼んでいました。

ある日突然、こんな言葉が飛び出しました。

これは、幸郎さんが最も恐れていた言葉でした。

 

しかし巻子さんは、この言葉が一番幸郎さんを悩ませることも

よく知っていました。

後にも先にもこの言葉を発したのは一度だけだったそうです。

 

逆に、数十回にわたり、夫への愛情を伝え続けています。

 

「ゆ き お さ ん を あ い し て い ま す」

 

究極の苦しみの中での、精一杯の愛情表現に感動します。

 

幸郎さんは、現在、75歳。

56歳の時にアメリカで、リビングウイル(LW)を作成し

公正証書にされていました。

 

リビングウイルとは「生前の遺言状」と言えば分かり易いでしょう。

日本においては、まだ医療者においてもまだ認知度の低い言葉です。

一方、アメリカでは法制化され41%の人がLWを表明しています。

 

日本においてLWを表明している人は、まだ01%しかいません。

現在、超党派の国会議員の間で議論されている尊厳死法案とは、

現時点ではたった0.1%の国民を対象とした法律とも言えます。

 

幸郎さんがLWを表明したのは、自分自身が重大な病気になり

意思表示ができなくなった時を想定しての行動でした。

アメリカの高額な医療費負担で家族を苦しめたくないという想い。

 

今回、巻子さんの件があってからは、日本尊厳死協会にも入会。

自分が不治かつ末期となった時に延命治療は拒否する意思表示

とは、あくまで自分自身の「死の権利」を表明しているのです。

 

さて、幸郎さん自身に膵臓に腫瘍が見つかり手術を受けました。

もし自分が死んだら巻子はどうなるのだろうと悩んだそうです。

しかし、チューリッヒでお会いした幸郎さんは元気そうでした。

 

幸郎さんは夫婦で入るお墓を、もう準備したそうです。

思い切って巻子さんに話すと、喜んでくれたそうです。

「あの世に行ってもふたりは一緒だよ」と言われたと。

 

「どちらが先にあの世に行くのか分かりません」と幸郎さん。

「散る桜 残る桜も 散る桜」

これが巻子さんの好きな俳句だそうです。(つづく)