《0798》 「レッツチャット」とは [未分類]

今日は「梨木」さまからご質問頂いた「レッツチャット」

という会話補助器について、くわしく説明いたします。

「レッツチャット」はパナソニックの子会社で開発されました。

 

それ以前は、巻子さんは耳は聞こえるし目も見えたので、

質問に対して(Yes)の場合は目を2度パチパチする、

(No)の場合は目を閉じるというルールで意思疎通していました。

 

意識が出てから盛んに口を動かしてピポパポ言うようになりました。

巻子さんは、なんとか音を出して話したかったのです。

しかし口と鼻を通して呼吸が出来ません。

 

声帯の神経も麻痺しているのでピポパポと音を出すしかできません。

幸郎さんはそれが大変いじらしくて胸が張り裂ける思いだったそう。

しかも幸郎さんには、本人が何を言いたいのか、全くわかりません。

 

読唇術というものがあります。

ただし鏡の前で(あいうえを)(かきくけこ)と音を出さないで

口を動かしてみてください。

 

(あ)も(か)も同じ口の動きです。

奥にある舌の動きの違いまでわかりません。

さらに、このピポパポもだんだんと、できなくなりました。

                       

あごの骨も折れていたので、徐々に顔の筋肉も固まってきて、

現在は、すこしだけプープーするだけです。

事故から2度目の(2008年)正月 涙は口から出たそうです。

 

「レッツチャット」は自分でスイッチを押せることが前提です。

しかし巻子さんは全身麻痺ですから、当然手も足も動きません。

首も動きません。

 

動くのは目のパチパチと口元の若干の動きだけです。

言語療法士さんはいろんなスイッチを試されました。

目の横に貼り付けるセンサー式スイッチも試しました。

 

しかし、どれもこれもうまくいきませんでした。

結局、最初の病院では会話補助器を使うことは不成功でした。

それでも、これが後に出来るようになったのです。

 

次の病院に移ってからのことです。

2009年2月、あるテレビ番組で重症患者さんが、ちょっとしか

動かない指や首の動きを使ってスイッチを一生懸命押していました。

 

幸郎さんはそれを見て、もう一度やってみようと思い立ちました。

ちょっとした偶然は諦めない人に大きなヒントを与えてくれます。

それまでは本人が押さなければだめだという先入観がありました。

 

自分で押せる部位に合ったいろんなスイッチが開発されています。

しかし、巻子さんには自分で押せる部位がないわけですから、

本人に代わって幸郎さんが押せばいいことに気が付いたのです。

 

目だけは動いていたので、以前からの(Yes)と(No)のルールが

あったので目をパッチと信号を送れば、幸郎さんがスイッチを押すこと

にすれば意思疎通できることを、「発見!」したのです。

 

ちなみに「レッツチャット」は2,000台ほど市場に出ているそうです

そのうち実際に使っている患者さんは、たった400人ほど。

うち2人3脚は、松尾さん夫妻だけだそうです。

 

以上は、松尾さんに直接伺ったお話です。

 

実は、私は現在、ALS(筋委縮性側策硬化症)の患者さんを

数人、在宅で看ています。訪問看護師さんに任せっきりですが。

意識清明、人工呼吸器、胃ろうとなると巻子さんと極めて似ています。

 

うち2人は、「レッツチャット」を試したことがあります。

しかし上手く活用できず、私も諦めてきました。

しかし松尾さんのお話を伺い、再チャレンジしょうかと思いました。

 

夫婦の絆、愛情とは、凄いものだとあらためて感動しました。

現代技術と愛情の両方が揃って初めて、夫婦の会話が成立したのです。

「梨木」さま、これでだいたいお分かりいただけたでしょうか?

 

こうなると、明日は「横隔膜ペーシング」について書きましょうか。

実は、これは私も全く知らなかった最新機械なのです。

介護者(松尾さん)に教えて頂いているヘボ医者です。(つづく)