《0897》 遥かなる特養での看取り [未分類]

台風は大丈夫でしたか?
大阪に最も台風が近づいた昨日午後2~4時に
私は、なんとホテルで講演をしていました。 

誰も来ないかと思っていました。
あるいは中止ではないかと。
しかし、そんな連絡は来ず、会場に行きました。 

あの悪天候の中、なんと100人近い人に
認知症の講演を聞いて頂きました。
しかも、これまでの中で100点満点の講演ができました。 

不思議です。
低気圧のせいでしょうか?
自分でもよく分かりませんが絶好調でした。 

さて今日は、見知らぬAさんと最近かわした
メール相談を、そのまま転載させて頂きます。
よくこんな相談が舞い込みます。 

実にリアルであり、なんともいえない往復書簡でしょう。
患者さんやご家族の言葉の中にこそ、真実があると思います。
特養での看取りがいかに困難であるかよく分かります。 

「遥かなる平穏死」だと感じました。 

今日はかなり長いですが、ゆっくり読んでください。
もちろん個人情報は抜いています。
ちなみに○○市とは、大都市です。 


【Aさんのメール1】

私は○○市在住の69歳の男性です。 

家族は母親と私の長女と長男で妻には先立たれています。
母は平成19年から○○市にある特別擁護老人ホームに入所中。
現在、要介護4でほぼ寝たきり状態にあります。 

長女は結婚し、家を出て先般第一子が生まれております。

長男は就職し、一人暮らしをしております。
従って私は現在、自宅で一人暮らしをしております。 

私はこのたび先生の「平穏死・10の条件」を読みました。
先生のお考えに感銘し、私もその通りだと思いました。
お忙しいとは思いますが、メールでの相談に乗ってください。 

母は91歳で、75歳ごろから発症した脊柱管狭窄症で
慢性的腰痛のため現在は車椅子への自力移動および自走も出来ず、
食事で食堂へ行くのは介護士の介助によっています。 

また、動けないのでポータブルトイレの利用も出来ず、
定時的におむつを交換してもらっております。 

さらに平成17年には人にぶつかられ、右大腿骨頚部骨折で
入院・手術をして金具を装着したことにより、右脚も常時痛みがあり、
腰痛と併せて寝たきり状態に至っているものです。 

その他動脈硬化と心房細動の持病があり、薬が処方されており
また、軽度の認知症で新しい記憶は出来ず、
難聴で意思疎通もままならない状態にあります。 

加えて、今年に入ってから食欲の低下が進み、
施設の食事の1~2割ぐらいの摂取で水分も少ししか取らないので
衰弱が進み、現在は施設の方で工夫をしゼリー食を提供してくれて
おりますが、摂取の状況は芳しくありません。 

そのため8月に発熱したため、施設から病院に入院させることとなり、
脱水で1週間ほど入院し、症状が改善したのと入院を続けると認知症が
一気に進む恐れがあるとのことで退院させられました。 

その後も食事や水分の摂取の状況は相変わらずで
いつまた脱水や老衰で入院することになるか分かりません。
やがては、胃ろうということになる心配があります。 

家族としては、母の年齢や状態から、緊急時において、
心肺蘇生装置や人工呼吸器の装着や胃ろう等の延命処置は望まず、
平穏な最期を迎えてほしいと願っております。 

しかし、本人の理解力や意思表示は望めないので、
救急車で搬送された場合、どう処置されるか心配です。 

施設からは毎年、急変時における延命等に関する
意思確認が行われており、延命処置は希望しないが
苦痛を和らげる処置なら希望すると回答しております。 

急変時とは、意識が無く反応が無いか著しく鈍い、あるいは心肺停止状態等とされており、
延命処置とは、高度救命救急医療機関で人工的な機械の装着と同時に
薬剤等を用いて心臓や肺の機能を組成または維持することとなっています。 

もちろん施設から私へ連絡はあるはずですが、
そういう場合どう対応するのが良いのでしょうか?
アドバイスいただけるなら幸いです。 

また、施設との契約書には、病院に入院することになり、
明らかに3カ月以内に退院できる見込みが無い場合
または3カ月を経過しても退院できないことが明らかになった場合には
退所させられることになっております。 

従って、その場合には病院を退院した後は、施設に復帰できなければ
多分自宅に連れて帰るしかないことになるものと思います。 

そうなると私は料理が出来ないので
食事をどうするかが一番心配になります。
胃ろうが施されていたらなおさらです。 

口からの食事の場合でも食欲が無いのでどうしたら良いのか
本当に困ることになると思います。 

介護保険による介護介助の利用とともに、
医療機関による訪問診療や往診を受けなければならなくなると思います。 

○○市には、訪問診療や往診をしてくれる医療機関があるのか分かりませんが、
先生の方で○○市における在宅療養の状況や
医療機関について情報をお持ちでしたらお教えいただきたいと思います。 

またそういった情報を調べる適当な方法がございましたらお教えください。 

【長尾のメール1】

はじめまして。長尾です。
メール、拝読しました。 

急変しても救急車で搬送しないで欲しい旨を
書面で渡せばどうでしょうか。 

その施設は、看取ってくれる施設でしょうか?
一度嘱託医と相談されたらどうでしょうか。 

とにかく、その特養を出ないことだと思います。 

なお、○○市の在宅医の情報は知りませんが、
○○市医師会に電話ないしHPを検索すれば入手できると思いますが。 

【Aさんのメール2】

お忙しいところを早速アドバイスを賜りまことにありがとうございました。 

「急変しても救急車で搬送しないで欲しい旨を書面で渡せばどうでしょうか」
「嘱託医と一度相談されたらどうでしょうか」 

とのアドバイス参考になりますが、母の入所している施設では、
「看取り」は行っていない、行わないと
若い相談員から言われたことがあります。 

ベテランの相談員に来週面会に行ったときに確認してみます。 

看取りをしないという考え方である場合は、
緊急時には嘱託医の判断により提携の病院へ搬送されることになるものと思います。 

嘱託医は非常勤で、入所者の診察を一人につき月一回行うために、
週一日施設に来ているようです。 

契約書でも、緊急時は嘱託医に相談し処置するとともに、
家族に連絡することとなっております。 

従って、「救急車で搬送しないで」という申し出は
多分受け付けてくれないだろうと思いますが、
一応ベテランの相談員に聞いてみたいと思います。 

また、○○市の在宅医の情報については、医師会に照会してみます。
ありがとうございました。 

【長尾のメール2】

お返事ありがとうございます。
看取りを行っていない特養がまだあるのですね。
ちょっと信じられません。 

施設長とよく詰めてお話しをすべきでしょう。 

あるいは、看取りが近くなれば、
外部から看取りをしてくれる開業医を入れることができるはずです。
あくまで施設で自然な最期を迎えるのがベストだと思いますが・・・ 

【Aさんのメール3】

再度のアドバイスありがとうございます。 

施設側とよく話してみたいと思います。 

○○市における在宅医についてインターネットで検索してみました。
いくつかあることが分かりましたが、
開業医さんには該当がありませんでした。 

看取りをしてくれる開業医を探すのは難しいのではと思っておりますが、
引き続き努力して行きたいと思います。 

【長尾のメール3】

長尾です。 

顛末をまた教えてください。
看取りをする開業医は決して珍しくはないはずです。
諦めずに探してください。 

【Aさんのメール4】

ありがとうございます。 

昨日面会に行き、ベテランの相談員の方と
ざっくばらんにお話しをしてきました。 

結果は、やはりその特養では看取りは行わないとのことでした。 

施設の状況やスタッフの状況から出来ないとのことで、
特に夜間は、看護師が不在となるので、また介護士も2人だけとなるので
24時間医療管理をすることは出来ないとのことでした。 

医師も常駐していないので、
昼間でも緊急事態のときは救急車を呼ぶことがあり
提携医療機関で受け入れられない時には、
救急側で受け入れてくれるところを探してもらい搬送になる。 

夜間の場合は対応できないので救急車を呼ばざるを得ない。
救急車は呼ばないことにして欲しいと言われても、
看取りは出来ないので病院へ移ってもらうしかない。 

看取りをしてくれる開業医にきてもらうことは出来るかと質問したら、
24時間看取りに着てくれる開業医は居ないだろうし、
仮に居たとしても嘱託医との関係から来てもらうことは出来ないとのことでした。 

点滴は夜間のことがあるので出来ない。
胃ろうが施されて施設へ戻ってきたら対応は出来るが、
痰の吸引は夜間出来ないので緊急事態が起こり兼ねない。

 ということで、施設でぽっくりころり逝かない限り
施設での看取りは無理であると思います。 

あまりしつこく求めていくと、
それなら対応可能な施設を探して移ってください
と言われたら困ります。 

療養病床が一番良いのではと思いますが、
廃止の方向で非常に少なくなっていると思いますし、
探して今、入るということは不可能でしょう。 

また別の特養にすぐ入ることは全く不可能ですので、
現在の施設とうまく対応していくことであろうと思います。 

従って、病院でいたずらな延命行為が行われないように
家族として見張っていくということになると思います。 

いろいろとありがとうございました。
また何かありましたら、お忙しいところをまことに恐縮ですが、
ご相談させてください。 

【長尾のメール4】

情報提供ありがとうございます。
ところで○○市なら、○○会の○○病院は如何でしょうか?
そこの理事長とは懇意ですが。 

イザとなったら直に紹介しますから、ご相談ください。 

【Aさんのメール5】

ありがとうございます。 

実は、その特養の提携医療機関とは、○○会です。
その経営してる病院は○○病院と△△病院です。
施設で連れて行く病院は△△病院の方です。 

施設の嘱託医は○○クリニックの先生だそうです。
○○病院には療養病床があるとのことですが病床数は少ないようです。 

インターネットで調べた結果では、○○病院は在宅療養を行っていて
訪問診療や往診を行っているようです。 

そういう関係の中で、施設側との相談が可能かも知れないと、
一抹の期待は持っております。 

イザのときには先生にご紹介いただくことをお願いするかも知れません。
その際にはよろしくお願い申し上げます。 

【長尾のメール5】

驚きました。
世の中、狭いですね。 

しかし、かなり困った話ですね。
またまた、ちょっと信じられません。 

ただ○○会の経営者とは懇意ですので
直接、彼に特養での平穏死をお願いしましょうか? 

【Aさんのメール6】

たびたびのメールありがとうございます。 

先生のお気持ち大変ありがたく思いますが、
医療法人○○会の理事長は、特養の管理者ではないので、
理事長から直接特養へ働きかけていただくことは見送ってください。 

現在母の状態は差し迫っている状況ではなく、
一応、低位安定状態ですので、このまま様子を見ていきます。 

○○病院は在宅療養を行っておりますが、
ホームページで見ますと緩和ケアは行っていないようです。 

緩和ケアについての説明は何もかかれておりません。
インターネットで○○市の医療機関で緩和ケアを行っているところを探したことがありますが、
一つもありませんでした。 

近隣では唯一、○○県の○○病院に数床あるだけでした。
それも予約が必要で、
実際有事に入院することは不可能であると感じました。 

従って○○市の医療機関は、医師の使命感に基づき
一日でも長生きさせるように医療行為を行うものと思われます。 

特養の相談員の方からは、家族の意向を考慮しながら
出来るだけの努力はしますと言われておりますので、
そういう状況になった場合は良く相談していきたいと思います。 

どうもありがとうございました。 

【長尾のメール6】

力不足で大変申し訳ありません。
しかし、○○市や○○病院の現状がよく分かりました。
私自身も、まだまだやることがあると強く感じました。 

また、事の顛末を教えてください。
平穏死できそうかどうか、です。
それまでお元気で療養生活を支えてあげてください。