《0915》 「最期まで食べられる人と食べられない人の違いとは?」 [未分類]

【相談】 

何よりも食べることが大好きな私。
長尾先生も本に書かれている通り
生きることは食べることと常々思っております。 

「平穏死」10の条件』を読んで、一番うれしく思ったのは、
最期の最期まで食べられる人がいるという ところでした。 

本には「がん性腹膜炎の患者さんが、死ぬ3時間前に
バナナを2本食べた」とありました。
大学病院の先生は信じてくれないとも書いてありましたね。 

長尾先生のご経験上、末期がんの場合、最期まで食べられる人と、
食べられなくなる人の違いはどこにあると思いますか? 

(相談者・鹿児島県/69歳男性) 

 【回答】 

胃がんや大腸がんなどお腹のがんは、最終的に
がんがお腹のなかいっぱいに広がります。
開腹すると米粒のようながんの塊が散らばっています。 

その結果、小腸や大腸に癒着が生じます。
チューインガムがくっついたように自由に
蠕動運動できなくなります。 

そのような状態を「がん性腹膜炎」と呼びます。
酷くなると癒着があちこちできて、
さらに自由な蠕動が運動できなくなり「腸閉塞」に至ります。 

腸閉塞が普通予想される、がん性腹膜炎の終末期像です。
私も勤務医時代、ずっとそう思ってきました。
全員に鼻から管を入れて腸の内溶液を排出していました。 

もちろん食べることなんて到底できません。
ゲボゲボ吐くことを軽減するだけで精一杯。
食べられないということで高カロリー輸液をしていました。 

しかし実は、この高カロリー輸液が腸閉塞の犯人でした。
水分を沢山入れると腸管の壁が浮腫みます。
浮腫むと腸の動きが悪くなります。 

水分を沢山入れると、腸管の中に貯留する腸液量も増えます。
動けない腸管の中に貯まった水分は当然、逆流、嘔吐します。
頻回に嘔吐すると辛いので鼻から胃に管を入れて留置します。 

しかし、在宅医療では全く違う世界です。
癌性腹膜炎で食べられなくなりそうでも輸液をしません。
しても当院では200mlです。 

すると自然な脱水に至り、腸管の浮腫みは取れて
腸管の内溶液もほとんど貯まりませんので吐きません。
すると腸管は少しずつ動き出しし、少しは便が出ます。 

在宅では、がん性腹膜炎でも最期まで食べている理由は
以上のような理由です。
但しこれは私が経験から勝手に言っているだけのことです。 

さて、個人差についてのご質問ですが、
がん性腹膜炎であれば「癒着」の程度によって多少の差があると思います。
頑固な癒着の場合、脱水になっても腸閉塞が解除しにくい場合も。 

がん性腹膜炎以外であれば、最期まで食べ物を口にしています。
亡くなる10分前までアイスを食べていたひともいました。
私も、その直後に息を引き取るとは思いませんでした。 

会話ができるということは、食べられるということです。
私はそのように判断しています。
誤嚥しても、食べたければ食べていただきます。 

以上は、病院の先生方は多分ご存知ないでしょう。
それどころか、おそらく「嘘だ」と言われるでしょう。
私も「そんなはずはない」と同業者によく言われます。

 同じ病院に呼ばれて3回、同様の講演をしたことがあります。

しかし消化器専門の先生はみなさん「信じられない」とのこと。
そんな現状をみて『「平穏死」10の条件』を書こうと思いました。