《0916》 「老衰は病名ではないの?」 [未分類]

【相談】 

私の母は100歳で大往生しました。 

残念ながら、お風呂場で骨折し、病院で入院したのち
歩けなくなり半年間の入院ののち亡くなったのです。
「よくぞ100歳まで生きてくれた」と家族は満足感がありました。 

骨折以外は健康でした。
眠るように死んだので、「老衰」で死んだ、と
私達は半ば誇らしげに思っていました。 

しかし死亡診断書には、「肺炎」と書かれました。 

先生の本を読み、あのときのことを思い出しました。
病院のお医者さんは死亡診断書に「老衰」とは書かないものなのですか?
些末な質問かもしれませんが……あの日のことが引っかかっています。 

(相談者・三重県/75歳女性)

 【回答】 

私はこの問題の専門家ではないので、
個人的意見として聞いてください。
あくまで、一町医者としての見解です。 

昔、「老衰」という病名を書いてはいけない、と
上司に強く教えられた記憶があります。
また、「心不全」もダメと言われたように記憶しています。 

一方、厚労省や保健所がまとめる死亡統計の基礎となるのは、
唯一、死亡診断書だけだと思います。
それしかありません。 

ですから、死亡病名は大切です。
できる限り、真実に近い病名を第一病名として書きます。
その原因がさらにあれば、第二病名も書きます。 

さらに、「死亡に直接影響はしなくても死亡に影響した
可能性がある病名」があればそれも書くことになっています。
実は死亡診断書の書き方は、非常に難しい面があります。 

「死亡診断書の書き方」なんて講習会があります。
また医師会から、資料が渡されます。
死亡診断書の書き方も、すこしずつ変わっています。 

現在、日本人の死因は、がん、心筋梗塞に次いで
なんと肺炎が脳血管障害を抜いて第3位に上がりました。
これは、なんと60年ぶりのことだそうです。 

さて、100歳の大往生が肺炎か老衰かについては
意見の分かれるところではないでしょうか。 

主治医が病気で亡くなったと思えば「肺炎」だし、
歳のせいだと思えば、「老衰」になります。
主治医によって、病名が変わる可能性があります。 

肺炎の所見が全く無く、完全な老衰だけという人もいました。
しかし多くの場合、多少の肺炎を併発して亡くなっています。
長く臨床医をしているとそのように思います。 

「平穏死のすすめ」を書かれた石飛幸三先生は、最近は
死亡診断書に「老衰」しか書かないそうです。
老人施設にいるとそうなるのでしょう。 

私が勤務医時代は、「老衰」と書いたのは、たしか3通だけ。
しかし現在は、年間かなりの数の「老衰」を書いています。
ただし、肺炎かどちらか、迷う場合もあるのは事実です。 

その場合、家族に聞くことにしています。
「どっちで書きましょうか?」 

答えは両方あります。
「肺炎」という家族と、「老衰」という家族。 

もちろん、年齢が大きな要因です。
年齢がいけばいくほど、老衰が増えるのは当然です。
100歳であれば現在の私なら「老衰」と書きたいところです。 

「肺炎」と書いて、遠くの親戚に怒られたこともありました。
「医者のくせに肺炎も治せなかったのか!」と。
そんな風に言われるのがイヤだと思う時もあります。 

また「肺炎」の原因を聞かれて、「誤嚥」と言ってしまい、
これまた叱られたこともあります。
「医者のくせに、誤嚥性肺炎も治せなかったのか!」 

80歳くらいだと「老衰」と書くことを迷う場合もあります。
明らかに平均寿命を超えていないと、老衰とは書きにくい。 

しかし、75歳であっても「老衰」としか思えない最期が
あるのも現実です。
確信を持って「老衰」と書いたこともあります。 

昔は、ビビりながら「老衰」と書いていましたが、
現在は、堂々と「老衰」、「老衰」と書いています。
その方への勲章だと想いながらそう書いています。