《0917》 「麻薬の知識は在宅医によって違う?」 [未分類]

【相談】 

大腸がんの夫は在宅医療、在宅死を希望しており、
近くの在宅医のお世話になっていました。 

しかし、徐々に痛みが酷くなっているようで、
先ごろ入院をしました。 

「在宅ではできる痛み止めが限られるから、
病院のほうが痛みの緩和はできる。
すぐにナースが飛んできてくれるし」と在宅医に言われました。 

ですからそういうものかと思ったのですが、どうも、
長尾先生の本を読むと違うようです。 

その在宅医の方を悪く言うつもりはありませんが、
痛み止め、麻薬の知識がある在宅医は、まだまだ
ほんの一握りではないのですか? 

だからと言って、『「平穏死」10の条件』を読みましたか?

とお医者さんに言うのは気がひけます。 

(相談者・埼玉県/70歳女性)

 【回答】 

大変、答えにくい質問、ありがとうございます。 

答えるのに、大変、勇気と覚悟が要る質問です。 

結論から言って、そのような在宅医は良くないと思います。
誤解を恐れずにいえば、緩和医療の技術が無いのであれば
末期がんを在宅で診る資格が無いと、私は考えています。 

がん対策基本法に基づいて、開業医や在宅医を対象とした
緩和医療の技術講習会が全国各地で開催されています。
ご質問のようなことが無いようにするためです。 

しかし現実には、そのような勉強をしていないで
在宅医療をしている医者もいるようです。
麻薬を一度も使ったことない在宅医もいますし…… 

これ以上、同業者の実情を書くのも心苦しいのですが、
まだまだ、そんな不心得な在宅医がいるのも現実です。
むしろ増えているとの情報もあり、頭を抱えています。 

まして「病院のナースのほうが……」とは論外です。
在宅医療は、多職種連携と言ってチームで支える医療です。
本にも繰り返し書いたように、訪問看護師が主役なのです。 

そのような在宅医を、在宅医仲間では「おいしいとこ取り」
と呼んでいます。
ごめんなさい、がっかりさせて。でも本当のことなのです。 

落ち着いた時期だけを診て、ややこしくなると病院に丸投げ。
一度でも携帯電話を鳴らしたら、「救急車を呼んで」で終わり。
それは「在宅医療」ではなく、「在宅ビジネス」と言います。 

病院の先生から見れば、在宅医療とはいまだそんな世界です。
残念ながら在宅医を信用している病院医は極く僅かでしょう。
私が忙しく走り回っているのは実はそのギャップを埋めるため。 

開業医でありながら、病院と在宅医の橋渡しをスムースにする
役回りをあちこちでしています。
尼崎の在宅患者さんとの両立に苦労する日々ではありますが。 

病院の先生は、私が看取った沢山のひとを知ることはありません。
彼らが診るのは、そのように病院に「丸投げ」されたひとばかり。
ですから、「平穏死なんて嘘だ、あるわけない」とよく言われます。 

しかし、多くの在宅医は当然、麻薬や緩和医療の研鑽を積み
最期まで患者さんやご家族のお気持ちに寄り添っています。
ですからたまたまそのようなお医者さんを選んだだけです。 

ただし、都市部では在宅医がそこそこいますが、
田舎では、見つけることが大変なのも現実です。
在宅医も人間ですから往診を嫌がる人もいます。 

あまり厳しいことを言ったら、在宅医療に取り組む
医者が現在よりさらに少なくなる可能性があります。
ですからその程度でもよしと、思って頂いたら幸いです。 

以上の見解を、現在、複数の医学書に書いているところです。
結構なことを書きましたが、特定の医者の悪口と取らないで。
あくまで、在宅医療の光と影、の影の部分とお考えください。