《0930》 「最愛の母の認知症が悪化。自宅で死なせたいけれど・・・」 [未分類]

【質問】

離婚して出戻り、母ひとり、娘のわたしひとりの二人の生活がもう10年以上。
父を胃がんで亡くした後、「私は家で死にたい」とよく話していた母ですが、
ここ2年で認知症がひどくなってきました。 

今は要介護3ですが、もうすぐ4ですと医師から言われました。
介護のために私は、残業のない事務職に切り替えましたが
これ以上症状がひどくなったら、自宅で平穏死させる自信がありません。 

どんなにケアマネさんやヘルパーを入れても、やはり負担は大きくなります。
それに、母は、私のこともそろそろわからなくなるのだと思うと、
精神的に辛すぎて一緒にいられないのです。 

子育てに忙しい妹には頼れません。
長尾先生でしたら、私のようなケースの母娘に出会った場合、
どんなアドバイスをされますか。教えてください。
(相談者・埼玉県/49歳女性)

 【回答】

非常によくあるケースです。
ザッと頭に浮かぶだけでも10件はあります。
同じように悩まれている方が大勢おられます。 

みなさん、それぞれです。
専業主婦や同居家族なら、いざ知らず、
仕事をしながらの認知症介護は大変でしょう。 

御苦労やジレンマはよく伝わってきます。
どこかの美談ではなく、私の患者さんの実話をお話しします。
何かの参考にしてください。 

貴方と全く同じような境遇、恐ろしいくらい似ている女性と
先週、お茶を飲んでいました。
埼玉県、49歳と書いてあるのでその方ではないのですよね。 

その方は、母親を週6回、デイサービスに通わせていました。
朝9時~夕方5時まで、月~土、預かってもらっていました。
たまたまご自宅の近くにデイサービス事業所があったのです。 

本当は4時半までのところを特別に5時まで預かってもらった。
娘さんが仕事から帰るのが7時なのでそれまでは無人状態です。
しかし夜と休日は、ずっと一緒に母親と楽しく過ごされました。 

仕事場の勤務時間の都合で、2回転職されたそうです。
仕事は仕事と割り切って、早く帰れる仕事を選びました。
早く終わった時は、スポーツをして気分転換されていました。 

そんな彼女に10年待った特養が空いたとの知らせが届きました。
私にも相談しましたが、せかっく待ったんだから、と勧めました。
そしてついに、私にとっては悲しい別れの日を迎えました。 

ところが、入所1週間で、母親を自宅に連れて帰ってきました。
有名な特養での介護の仕方が、不満のようでした。
まるで成田離婚のような感じでした。 

1週間ほど、自宅に籠城したあと気を取り直して
泣く泣く、また施設に戻られました。
究極の選択に相当悩んでいました。 

その後も、毎晩、食事を食べさせに行っていました。
何のための入所かよく分からない状態でした。
そして入所わずか3カ月で、母親は亡くなりました。 

環境の変化がよく無かったようです。
東日本暖震災でもそうですが、高齢者の住環境を
移動するおとは、かなりのストレスになります。 

娘さんは、あと10年は生きると信じていたそうです。
そう思って施設に入れたのに、わずか3カ月で旅立たれた。
その娘さんに、聞かれましたし怒られました。 

 「先生は、こんなこともあると思っていた?」
 「思っていました。」
 「そう思っていたのなら、なんで言ってくれへんのよ!」 

「私の予想はよく外れますからね。
  それに貴方が喜んでいたので言えませんでした。
  これは不可抗力で仕方がないことだと思います」 

先週、彼女とお茶を飲みながら、その後の話を聞きました。
気持ちは少し落ちつついてき、少し元気になっていました。
母親が亡くなり、また職場を変え、新しい人生を歩んでいました。 

次のケースでは6カ月ほど在宅療養したあと私の勧めで
認知症専門病院に長期間の入院をされたケースです。
この方の場合、入院で本人の認知症状は改善しました。 

現在は退院し、デイサービスを利用しながら、外来通院です。
認知症入院が、プラスになる場合もあります。
病院との相性にもよりますが。 

3番目の方は、ついに、在宅療養を諦めて施設に入れられました。
だた、月に1度、自分の休みに合わせて自宅に帰って来られます。
自宅への「逆ショート」を上手く利用しながら生活されています。 

ショートステイの活用が重要です。
しかし介護保険の枠が心配です。
10割の自己負担をできる人はごく少数。 

最近はデイサービスを利用したら「低額でのお泊り」がついてくる、
「お泊りデイ」という変な名前のデイサービスが、流行っています。
悪質な「お泊りデイ」には行政のメスが入っており隙間産業です。 

また、3カ月の介護休暇を取られた方もいました。
しかしその後、結局、退職されました。
それで娘さんがメンタル不調になりました。 

男性で、働きながら親の介護を考える方は多くありません。
しかし世の中は広いもので、時々、おられまます。
5時に帰れるように、特別配慮してもらっています。 

男性でも女性でも、早く、自宅に帰ることが重要です。
デイケアから帰ってくるのが、5時前後なのです。
その5時~7時くらいが、魔の時間帯なのです。 

どれが正解というものは無いと思います。
自分の仕事と介護を上手く折り合いをつけることです。
NPOや宅老所に相談に行くことを是非お勧めえいます。 

生きるとは楽しむこと。
介護するとは楽しむこと、
だと思います。 

【PS】

東宝映画「終の信託」、好評ですね。ホッとしました。
リビングウイル啓発のためにも是非見て頂きいたい映画です。
昨日の朝日新聞で77%の市民が無罪と言ってくれて嬉しかった! 

今日から京都で「第36回日本死の臨床研究会」は始まりました。
私は明日、ポスターセッションの座長を務めます。
今夜は、ゴルフ仲間のクラチャン祝勝会です。 

秋の連休を、お楽しみください。