《0940》 抗がん剤との出会い [未分類]

私は、医者になって1年目から抗がん剤を使いました。
半年もしないうちに白血病の患者さんの主治医になりました。
大学病院に緊急入院できない患者さんが送られてきました。 

大晦日に入院してきた患者さんは、私と年が同じでした。
歯ぐきからの出血が止まらないとのことで、近くの医院で採血。
異常を指摘され、診断がついた状態で大学病院を経由して紹介されてきました。 

顔色は真っ青で、口の中には点状出血が沢山ありました。
血小板は、5千。
通常は、20~30万です。 

血小板輸血が必要ですが、年末年始で血液製剤が足りません。
元旦の朝から、ご家族を連れて血液センターに献血に行きました。
こうして集めた血小板を輸血しました。 

赤い血も輸血し、正月明けには全身状態が安定しました。
そこから抗がん剤治療が開始されました。
その方には、抗がん剤という選択肢しかありませんでした。 

それから連日、先輩専門医の指示に従い、抗がん剤を打ちました。
正確には、点滴と内服の抗がん剤を組み合わせるのです。
それが、その白血病の当時の標準治療法でした。 

その若い患者さんは再び、食べられなくなり衰弱しました。
もちろん栄養補給の点滴もしました。
そして先輩から教えられたメニュー通りの抗がん剤を投与しました。 

2週間後には、頭の毛が抜け落ちてしまいました。
どんどん衰弱しました。
定期的な骨髄検査で抗がん剤の効果を判断するのです。 

骨髄検査とは、胸骨か腸骨の骨から骨髄液を少し採取します。
一瞬痛い検査です。
当時、私は毎日毎日、骨髄検査を行っていました。 

しかしその患者さんには残念ながら抗がん剤は、あまり効いていないようでした。
骨髄検査でも腕からの採血をしても抗がん剤が効いていないのは明らかでした。
その患者さんは一度も落ち着いた病状を得ることもなく3カ月後に旅立たれました。 

亡くなられる3時間前に、吐血されました。
彼が亡くなられた時は、私も泣きました。
「抗がん剤」というものをその患者さんから初めて教えて頂いた方です。 

そして抗がん剤は、人間を衰弱させること、
あるいは、髪の毛が抜けることを学びました。
(続く)