《0942》 抗がん剤と私 [未分類]

研修医時代、いちおう医者でありながら、
抗がん剤というものを、よく分かっていませんでした。
医学部の授業で習ったような、習わなかったような…… 

お薬の一般名や副作用はたしかに、ちゃんと習いました。
白血病や悪性リンパ腫の治療薬としては、習いました。 

そしてイザ、医者になり白血病の患者さんを目の前にして、
「よーし、習った薬で治そう」と意気込みました。
しかし「治す」という意味さえ、よく分かっていませんでした。 

大学病院から週1回外来にくる先輩に、何から何まで教えて頂きました。
看護師からは、抗がん剤は「自分で打ちなさい」、と言われました。
一番驚いたのは、ある抗がん剤は、見事に毒々しい色をしていること。 

ジュースと同じ色。
あの真っ赤な色を見ると少し身構えます。 

もし血管から漏れると皮膚が壊死して大変になる、
そんな抗がん剤もあります。
看護師さんは絶対に、そんな注射をしてくれません。 

医師が注射し、失敗したらその医師が責任を持って処置する。
抗がん剤は、投与量が大切です。
いわゆる「さじ加減」が大切。 

同じ抗がん剤でも、医者によって投与量が倍も違ったりします。
シスプラチンという白金系の抗がん剤は、使用量に10倍もの差があります。
もちろん、その薬を使う目的や患者さんの状態によって投与量が決められます。 

いずれにせよ、抗がん剤の量を間違えないように細心の注意をします。
昔、その量をひとケタ間違えて投与し患者さんが亡くなられたという
医療事故が報道されていました。 

毎日、打つ抗がん剤もあれば、週に1回や、毎日飲む抗がん剤もある。
現在は、週単位で飲む抗がん剤もあります。
現在、私のような町医者の外来で、点滴する抗がん剤もあります。 

ひとくちに抗がん剤と言っても実に多種多様です。
もっとも大変な副作用は、「嘔吐、嘔気」です。
1日中、ゲーゲー吐いていた患者さんもいました。 

その後、強力な吐き気止めができて、この問題は大幅に改善しました。
次に困る副作用は、骨髄での白血球、血小板が造血機能が低下すること。
そして、なんといっても全身倦怠感です。 

現在、当院の抗がん剤治療は専門病院との連携でのみ行われています。
病院の専門医からの紹介状には、具体的な指示が書いてあります。
私はそれを忠実に実行していきます。 

もちろん、血液検査などで副作用のチェックをしながらです。
そして2カ月に1回とか、病院受診が指示されています。
そのたびに病院の主治医に手紙を書きます。 

医学が進歩し、医療も進歩しました。
抗がん剤を巡る状況も大きく変化しました。 

しかし、抗がん剤をいつまで続けるか、という問いに対する答えは
昔も今も変わっていないように思います。 

いや、むしろ、医療が発達した分、
後退しているのではないかと感じています。
(続く) 

【PS】
森光子さんの訃報に接しました。
テレビで森さんの半生を見て、あらためて凄い方だと思いました。
謙虚、感謝、努力。 

森さんは、今を生きる日本人全体の目標。
彼女は身を持って教えていただきました。
ご冥福をお祈りいたします。