外来抗がん剤治療を行いながら、在宅医療をして欲しい、
という依頼がよく舞い込みます。
病院は外来で、診療所が在宅です。
診療報酬上、外来と在宅が医療機関によって異なると、
当局から取り締まりを受けるとの情報を得てました。
当初はそのような依頼をどうするか迷いました。
しかし患者さんの立場になって考えてみれば、
自然な求めなので引き受けることにしました。
そのようなひとを少なからず在宅で診て来ましたが、
いまのところ当局からお叱りは受けていません。
外来抗がん剤治療と在宅医療の関係は、
ボクサーとセコンド係りに似ています。
こう例えると分かり易いでしょうか。
患者さんは、外来抗がん剤室という「リング」で
「がん」と闘うボクサーです。
闘うとヘロヘロになってセコンドに戻り、しばし休憩します。
その休憩時間に体調を整えるのが、我々、在宅医療スタッフなのです。
元気を回復するための点滴や、マッサージもアロマテラピーもします。
やるのは訪問看護師ですが。
もちろん、外来抗がん剤室に通えるくらいなら、当院にも通ったらどうだ、
通えるんじゃないか、という意見もあるでしょう。
しかし、抗がん剤を打って数日は全身倦怠感、食欲低下が強く、
とてもそんな気力、体力はありません。
ですから2週間毎に外来抗がん剤治療を行っている人なら、
抗がん剤後の1週間のみ訪問看護の需要、依頼があり、
次の1週間はその需要が無いという人も実際おられます。
こちらは、患者さんの需要に合わせるのみです。
抗がん剤治療で疲れた体を休めることは、
長い目でみれば抗がん剤でがんと闘う時間を延ばすことになり、
抗がん剤治療を希望される患者さんには喜ばれます。
次回の抗がん剤治療の場にまた元気な体で行って欲しい、と願いながら。
それは、ボクサーを元気にして再びリングに立たせたい
セコンド係りと全く同じ気持ちです。
抗がん剤治療においても、病院内のみならず病院外においても、
いろんな役者、役回りがあって初めて成り立つものだと思います。
いずれにせよ、外来抗がん剤治療と在宅医療という組み合わせは、
ますます一般的になりつつあります。
外来抗がん剤治療には、自然とそのような需要が生まれます。
私は「二股をかける」と呼んでいます。
一般に「二股をかける」とは、悪い意味で使われますが、
この場合はいい意味でむしろ推奨しています。
患者さんの利益になるからです。
それを気にする患者さんには、病院の主治医には、
在宅医療を行っていることを早々に文書で情報提供します。
病院の主治医はそれを知ってどう思われるか、知りませんが、
怒られたことはありません。
大抵は、慌てて病院側も紹介状で情報提供し、最後に
「ちょうど助かりました。今後ともよろしくお願いします」
のようなことが書かれています。
それはだいたい本心であると思います。
その手紙を見ながら、病院の主治医も自宅での生活に
少しは思いを馳せていることを、あらためて知ることになります。
そこから医師同士の「文通」が始まることもあります。
(続く)