《0095》 余命はどう決まる? [未分類]

「死」は、在宅医療の日常です。
しかし、何度経験しても「非日常」でもあります。
全部が全く違います。
ご家族と何年経っても「たった一つの死」について語り合います。

末期がんの方の予後の予測は意外に難しいものです。
「病院の先生に余命3カ月と言われたら、実際の余命は1カ月である」
と経験豊富な某在宅ホスピス医は、自らのデータを基に発表されています。

余命3カ月と言われて1カ月で亡くなったら腕が悪いと怒られ、
余命1カ月と言われて3カ月も生きたら治療がよかったと感謝される。
そんなバカな!と思われるでしょうが、よく経験することです。

病院で「余命1カ月」と言われた患者さんが自宅に戻ってきた翌日に亡くなった。
家族に「あなたの治療が悪いからだ」と責められました。
何もしていないのに……。
八つ当たりなのですが、病院の医師を恨めしく思いました。

もっと極端な場合は、日曜日の昼に退院して、夕方、私に急変したとの
電話がかかり、駆けつける途中で家族が救急車を要請し、そのまま病院で
死亡確認となったケース。

「あなたがすぐに来ないから死んだんだ!」と、ご家族に後でクレームを言われました。
「まだ一度もお目にかかったことのない患者さんのご家族に訴えられるの!?」。
実際には、何もありませんでしたが、これを聞いた時は、驚きを通り越して呆れました。

病院の主治医の予測が、かなり違っていたようです。
いつも、「ギリギリ在宅は困ります」とあれほど言っているのに、余命数時間の
末期がんの患者さんを「余命2週間」と家族に説明して退院させていました。

病院の先生の肩を持つなら、それくらい予命予測は難しい、という話になります。
もう亡くなられましたが、仲の良かった某がん患者会代表の方は、テレビでも
「医者に余命2カ月と言われたのに、8年も生きています」と、何度も話していました。

数々の失敗を経験した医者は、どうしても余命を厳しめに言う傾向になります。
私自身もそうです。

しかし、この「余命」とは、医者の経験に基づいた推計であり、明確な基準はありません。
診る医者によって「余命」が2倍も3倍も異なることが充分あり得ます。
患者さんには「医者の余命なんて気にしない!」と、いつも笑い飛ばしています。

実際、私自身は、バッドニュースをご本人にそのまま伝えることはありません。
「あなたより私の方が先に逝くかもしれませんからね」とは、真顔で必ず言います。
これは正真正銘、私の本心です。
人の命は儚いものだ、と思いながら、毎日診察しています。