《0973》 乳がんの抗がん剤 [未分類]

乳がんは増加しています。
高脂肪食、飲酒と喫煙、運動不足、晩婚や未婚、
肥満などが危険因子として知られています。

乳がんになり易い年齢には、2つのピークがあります。
40歳代と60歳代です。
特に、閉経後の肥満にみられる乳がんはタチが悪いことが多い。

乳がんは、自分自身で見つけられるがんです。
乳がんは、乳頭部の上側、外側が出来やすい場所です。
入浴時などに、自分の手でしこりを探す習慣をつけましょう。

乳がん検診は、マンモグラフィーというレントゲンで行います。
石灰化というカルシウムの沈着所見が有名ですが、
石灰化のうち乳がんであるケースは、20%程度です。

乳がんの確定診断には、細胞診や組織診が行われます。
細胞診には、分泌細胞診と穿刺吸引細胞診があります。
組織診には、針生検、マンモトーム生検、パコラ生検があります。

乳がんは、非浸潤性がんと浸潤性がんの2つに分かれます。
乳がんのステージは、0期からⅣ期に分かれます。
がんが小さくても全身に転移している場合があります。

乳がんの治療を考える上で重要なものはエストロゲン。
女性ホルモンには、エストロゲンとプロゲステロンがあります。
エストロゲンは、乳がん細胞を、増殖させる働きをします。

乳がんの6~7割は、エストロゲン感受性が陽性です。
すなわちエストロゲンの作用を阻害することで乳がんの
増殖を防ぐことができるのです。

このような抗ホルモン剤は、閉経後と閉経前で異なります。
閉経前には抗エストロゲン剤のタモキシフェンが使われます。
閉経後は、アロマターゼ阻害剤が使われます。

アロマターゼとは、男性ホルモンをエストロゲンに変える酵素。
閉経後の女性は、卵巣からエストロゲンが賛成されませんが、
副腎からアンロドロゲンという男性ホルモンが産生されます。

それが、アロマターゼという酵素でエストロゲンに変わるのです。
だから閉経後は、アロマターゼの働きをブロックすることが大切。
難しい理屈に聞こえるかもしれませんが乳がんの方は知って下さい。

さて、乳がんはHER2というタンパク質が過剰に発現しているタイプ
があり、HER2レベルが、0、+1、+2、+3で表示されます。
HER2陽性の乳がんは2~3割で、ハーセプチンという薬が使われます。

乳がんの中には、エストロゲンとプロゲステロン感受性が陰性で、
HER2も陰性のものがあり、トリプルネガテイブと呼ばれています。
従来は、治療法が難しいとされてきましたが、最近は変わってきました。

個別的治療のために、ホルモン受容体とHER2受容体の
プラスとマイナスで、乳がんの性質は、5つに分類されています。

ルミナールA、ルミナールB(HER2-)、ルミナールB(HER2+)、
HER2タイプ、トリプルネガテイブです。
最近は、これにKi-67という増殖マーカーも考慮されています。

乳がんは、0期からⅢ期までは原則、手術をします。
乳房温存手術と全摘術があります。
乳房温存手術が望める方には、内視鏡手術も行われています。

現在、Ⅱ期とⅢ期の乳がんに対して、手術の前に
術前薬物療法が行われています。
ここは議論のあるところですが、現状を述べます。

全身に飛び散っているかもしれないがん細胞をやっつけ、
原発巣を小さくして(ダウンステージングといいます)、
手術をやり易くするというのが目的です。

術前薬物療法で、がんが縮小し、
消えてしまうこともあると言われています。
温存手術の可能性が大きくなるのかもしれません。

あと、その患者さんに効く薬の種類が分かるメリットもあります。
術前薬物療法と術後薬物療法は、同じ薬が使われます。
治療期間は24週間が原則とわれています。

さて、ここまで薬物療法と書いてきた、「薬物」とは、
ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬などの総称です。
ホルモン剤を含むことがポイントです。

一般に抗がん剤と分子標的薬を、化学療法と言います。
さて、ホルモン受容体陽性のルミナールAの患者さんには
出来る限り、ホルモン治療を続けるのが原則です。

閉経前の場合、LH-RHアゴニストと
抗エストロゲン剤の併用が行われます。
LH-RHとは、脳の視床下部から出る性腺刺激ホルモン放出ホルモン。

LH-RHアゴニストは1カ月ごとと3カ月ごとの製品があります。
その注射を2~5年間続けます。
抗エストロゲン剤は1日1錠の飲み薬で、5年間続けます。

閉経後の場合は、前述したアロマターゼ阻害薬を使います。
1日1錠の内服を5年間続けます。
アロマターゼ阻害薬には、2種類あります。

ステロイド型(アロマシン)と、非ステロイド型
(アリミデイックスやフェマーラ)です。
最初に非ステロイド型を使い効果が無くなればステロイドに変更します。

次に、ルミナールBの薬物療法について述べます。
ホルモン受容体陽性でHER2陰性であれば、
アフィニトールとアロマシンの併用療法が行われてきました。

HER2陽性であれば、ハーセプチンという分子標的薬
を中心とした治療が行われています。
タキソテールやタキソールなどの抗がん剤も併用されます。

現在、トリプルネガテイブの乳がんは、6つに分類されています。
がんが1cm以下なら手術で根治しますが、それ以外では
抗がん剤治療が行われます。
ファルモルビシンやエンドキサンによる、EC療法です。

EC療法に5-FUを併用したFEC療法もあります。
アドリアシンとエンドキサンの併用によるAC療法など、
結構、キツい抗がん剤治療が行われています。

一方、乳がんは、分子標的薬が主役になりつつあります。
HER2陽性へのハーセプチンをはじめ、タイケルブや
ゼローダなどの飲み薬が使われています。

転移・再発した乳がんには、アバスチンや
タキソールが使われます。
そのほか、ここに書ききれない多くの薬が開発されています。

以上、乳がんの抗がん剤治療は、まさに日進月歩です。
当院では、乳がん専門医によるマンモグラフィー検診を
行っていますが、早期発見、早期治療に努めています。

【PS】
昨日は、当院の忘年会でスタッフ達と遅くまで飲んでいました。
毎年恒例の大宴会、でした。
何人かのゲストにも参加いただきました。

日本で初めての抗がん剤の教授になった楢原啓之先生
(前・広島大学臨床腫瘍内科教授)は、私の医局の後輩。
彼は「抗がん剤で1分1秒でも患者さんを長生きさせます」と挨拶。

「東大話法」で有名な、安富歩・東大教授にも参加頂きました。
原発危機、自然農法などでも大活躍の安富先生です。
その他、豪華ゲストと、お酒を飲み交わしました。