《0987》 腫瘍マーカーの低下と延命効果 [未分類]

「抗がん剤で腫瘍マーカーが下がった!」
と喜び勇む患者さんを毎日のように見ます。
誇らしげに、自家製の折れ線グラフを見せてくれます。

あんなに苦しい思いをした代償として腫瘍マーカーが
低下することは、たしかにグッドニュースです。
上がるよりは下がるほうがいいにきまっています。

がんの治療をやらずに在宅医療を受けている患者さんの
腫瘍マーカーを測ることが、よくあります。
当然、徐々に上昇しますが、どこかで止まることも経験します。

稀に、何もしなくても自然に下がることもあります。
何かの間違いかなと思う時すらあります。
しかし、2~3カ月連続で下がることも経験します。

経験ばかりで申し訳ないのですが、腫瘍マーカーの動きを
見ていますと、決して一定ではないことに気がつきます。
ちょうど台風の進行速度が変化するのと似ています。

さて、抗がん剤で一旦下がったと安心するも束の間。
すぐに息を吹き返すがんも多くあります。
しかも、以前にも増す「勢い」であることがあります。

腫瘍マーカーの動きをグラフに書いて分析すると、
「抗がん剤で下がった時」よりも、「中止して上がる時」の
勾配のほうが「急峻」であることがあります。

結局、その患者さんは、あっという間に亡くなられました。
私は、いつも亡骸を見ながら、
その患者さんの抗がん剤治療の経過を思い返します。

「腫瘍マーカーが下がって喜んでいた」時の
笑顔が鮮やかに思い出されます。
しかし、あの笑顔はいったい何だったんだろう?と。

腫瘍マーカーの低下と延命は、必ずしも一致しないケースを
在宅医療をやっていても、ときどき経験します。
せっかく喜んでおられる人の前でとても言えませんが。

実は、がんと抗がん剤の闘いは、
単純なゲームのようにはいかないのです。
もっと複雑でその時々によって、戦局が変化するのです。

抗がん剤にやられていたがんが、何かの拍子で反撃に転じた時の
勢いに、時に「すさまじい」と感じることがあります。
もはやその時には、最初に効いた抗がん剤は無効です。

がんを攻撃する時はそうした「反撃」をも覚悟する必要がある。
MRSAなど抗生物質耐性の細菌や、タミフル耐性インフルウイルス
などを連想すれば、理解いただけると思います。

実は、そうした現象は、手術のあとに経験することもあります。

【PS】
今日の午後は、あるスポーツ新聞の取材を受けます。
テーマは、なんと、「平穏死」についてです。
ついにスポーツ紙までも、終末期を扱う時代なんだ。

年の瀬なのに、新聞記者も休み無しだなんて、
どこか親近感を感じています。
私も看護師も事務員も、まだまだ働いています。